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リハビリテーション勉強室11〜アルツハイマー病のお話し〜

イントロダクション
最近では昔に比べて、アルツハイマー病の知名度が高くなったと思われます。それは、「明日の記憶」「私の頭の中の消しゴム」などの映画が世の中に出回るようになり、アルツハイマー病という病気に間接的に接する機会が増えるようになったからであると思われます。
アルツハイマー病は高齢化社会の中で生活している我々にとって、全く関係のない話ではありません。年齢を重ねるごとに、アルツハイマー病に罹る確率が高くなっていくという事実がある中で、病気を予防するために何をしなければいけないのか、またもし病気になったらどのように病気と付き合っていけばよいのかといったことを多くの方が知っておく必要があります。
アルツハイマー病は認知症患者のうち約50%がこの型にあたると言われています。前回の認知症の記事でも述べたように認知症はアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症に大きく分類されます。脳血管性認知症は脳卒中などが原因により発症する認知症であり、ある明確な原因があります。
しかしアルツハイマー病は現代の医学では原因がわかっておらず、治療法もありません。アルツハイマー病の治療は主に薬物療法ですが、病気を“完治”する目的ではなく、あくまでも病気の進行を遅らせるものであります。今でもアルツハイマー病の研究が進められており、いつの日か完治する時が来るかもしれません。しかし、それがいつくるのかはわかりません。そういった中で大切になってくるのは、予防医学だと私は思います。アルツハイマー病にならないように日頃からどのように過ごしていけばよいのか、この記事で少し触れたいと思います。

アルツハイマー病とは
現在、アルツハイマー病の患者数は世界全体で約1,800万人、日本全体で約60万人存在しています。認知症患者数は2010年時点で世界全体で約3,560万人、日本全体で約200万人存在しています。
加齢とともに有病率(有病率:一時点における疾病異常者の単位人口に対する割合)は増加し、65歳以上の人口の2~4%程度、80歳以上の人口の20%程度、90歳以上の約半数がアルツハイマー病を有していると言われています。また、65歳以降5年を経るごとに認知症の有病率は2倍に増加していくと言われています。
アルツハイマー病は脳血管性認知症と同様に、記憶障害や見当識障害、遂行機能障害、注意障害などが徐々に見られてくる病気ですが、前回の記事でも述べたように脳血管性認知症と異なる点があります。それは、アルツハイマー病は人格から障害されていきます。人格が障害され、認知機能の低下が見られ、そして最終的に意識障害が見られます。これは脳血管性認知症とは逆の経過を辿ります。
例えば、
・いつも礼儀正しく、夏でも外出するときには着物をきちんと着つけてでないと気がすまない人が、普段着で外出するようになり、着るものや化粧に関してずぼらになり、無頓着になった。その後、認知症の症状が強くでるようになった。
などのように、今までのその人らしさである人格が異常に感じられるように変化していくことがアルツハイマー病の初期には見られます。

アルツハイマー病はどうして起こるのか?
現代の医学ではアルツハイマー病が発生する原因として、アミロイドβ淡白と呼ばれる物質が異常な蓄積によって神経細胞が死滅するといった説が有力となっています。しかし、アミロイドβ淡白がアルツハイマー病の原因であるのか、結果であるのかは今のところ明確にはなっていません。
アミロイドβ淡白が蓄積することによって、老人斑を形成し、健康な神経を障害します。その結果、下の写真のように脳全体が萎縮してしまい、様々な機能が低下してしまうのです。

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(画像引用:アルツハイマー病

アルツハイマー病のリスクファクター
アルツハイマー病は糖尿病や脳血管障害、心臓疾患などの病気と関連があると多くの研究で言われています。特にある研究によって、糖尿病があるとアルツハイマー病の発症リスクは2倍になり、さらに糖尿病をコントロールするためのインスリンと呼ばれるホルモンを注射しているとその2倍になると言われています。これらの病気は、生活習慣病であり、遺伝的な要因や社会的な要因の他に、日々のライフスタイルの崩れることによって引き起こされます。そのため、日々の生活習慣病の予防がアルツハイマー病の予防につながります。

アルツハイマー病のリハビリテーション
予防の観点から
アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症の発症を遅らせる方法の1つとして運動が効果的であると言われています。有酸素運動は全身の筋肉や関節、骨などの骨格系、また肺や心臓などの心肺機能系にとって良いとされていますが、脳の機能にとっても効果的であるという研究報告が多く発表されています。有酸素運動によって、前頭葉や前頭前野が関わる遂行機能を高まると言われています。
認知症の医学的な危険因子として、メタボリックシンドロームや脳梗塞、脳血管障害、鬱病などが挙げられます。運動はこれらのリスクを低下させる効果があり、認知症の予防として運動を推奨されています。具体的には、運動によって心拍数を減少し、血圧を低下させ、死亡率を減少させ、脳卒中や心疾患などの心血管系疾患のリスクを改善します。
効果があるとされている運動は、
・歩行
・ジョギング
・ハイキング
・自転車
・有酸素運動
・筋力強化トレーニング
・ストレッチング
・柔軟性向上訓練
・レクリエーション
・体操
・ダンス
などです。
具体的な運動の量と質は、最低でも週2回以上、1回20~30分の活発な運動を行うことが推奨されている。そして一番重要なことは、楽しみを持ちながら、長く続けることであります。楽しみながら運動をすることによって、心理的にも効果があり、認知症のリスク要因の1つである鬱病を予防できます。また継続することによって、身体の機能を絶えず維持することにつながります。そのため、嫌々運動をするのではなく、自分が興味のある運動を選択したり、仲間と一緒になって励まし合いながら運動を続けていくことが重要です。

作業療法の観点から
作業療法では主にQOL(生活の質)の向上に目標を持って、アルツハイマー病の患者さんにリハビリテーションを実施することが多いです。当事者が病気を患っても、その人らしい生活を営めるように、支援していきます。前回の認知症の記事でも述べたようなリハビリテーションを実施していきます。
・作業活動
・グループでの他者とのコミュニケーション
・ゲームや運動
患者さんが興味を示したり、昔経験したことがある活動を用いて、患者の意欲を引き出すように働きかけます。作業療法では、その人がどのような人生を辿ってきたのか把握することが大切になってきます。病前にはどのような役割を担っていたのか、どのようなことに興味があったのか、どのような活動にやりがいを持っていたのか、といった情報を知り、リハビリテーションの中に取り入れて行きます。そうすることで、その人本来の人格が現れたり、日々の活動にやりがいや自信、楽しみが生まれ、QOL(生活の質)が向上するようになります。

最後に
アルツハイマー病は今現在、不治の病です。世界中の多くの研究者がこの病に立ち向かい、日々努力して原因を探索し、薬の開発や、治療法を見つけています。しかし、2003年にヒトのゲノムの全塩基配列が解明されてから、アルツハイマー病に関する研究が格段に進歩すると言われていましたが、約8年経った今での原因は解明されていません。この記事でも述べたように、アルツハイマー病は様々な要因が重なり合っており、原因が1つであると断定できないからです。
したがって、病気になっても完全な治癒を求めるのではなく、病気とうまく付き合ったり、経過を遅らせたり、また病気にならないように予防していく心構えが必要であると私は思います。そのためには、病気の知識を知り、どのようなことをすれば予防できるかなどの情報を、正しい目で見つけていくことが大事であると思います。この記事がその一助となれば幸いです。

今回の記事で最終回です。拙い日本語でわかりにくい部分があったと思いますが、読んで下さってありがとうございました。また、本記事の連載を書くにあたって、参考にさせていただいた論文、参考図書が多くありました。それらの著者にここで、感謝申し上げます。皆様もぜひ機会があれば、お読みいただければと思います。

【記事執筆者:作業療法士 竹内健太】

参考・引用文献

1) 精神疾患の理解と精神科作業療法


2) Wikipedia:アルツハイマー型認知症

3) 朝田 隆, 加藤守匡:認知症の発症予防・遅延のためのリハビリテーション. THE BONE, Vol.22 No4:57-61, 2008.

4) 長屋政博:認知症に対する運動および身体活動の効果. Jpn J Rehabil Med, Vol.47 No.9:637-645, 2010.

5) 朝田 隆:アルツハイマー病予防は?. 肥満と糖尿病, Vol.8 No.1:89-91, 2009.

6) 朝田 隆:アルツハイマー病のリスクファクター:治療と診断, Vol.96 No.11:47-51, 2008.

7) 国際アルツハイマー病協会:世界アルツハイマーレポート 2009年 概要版

リハビリテーション勉強室10〜認知症のお話し〜

イントロダクション
今回は認知症のリハビリテーションをご紹介していきます。まず始めに、断っておかなければならないことは、認知症は医学上、精神疾患に分類されますので、高次脳機能障害とは全く異なるということです。というのは、高次脳機能障害は精神疾患ではないからです(しかし依然として障害者手帳を取得する際は精神障害者として分類されますが)。認知症では、基本的な障害として知的機能、認知機能、記憶機能、言語機能、遂行機能などの低下が認められるといったように、今までこのブログで紹介してきたような高次脳機能障害の症状が出現するため、このブログで認知症を取り上げることとしました。また、以下の図のように今後高齢化社会が進んでいき、また日本人の平均寿命が世界でも上位に位置する国である中で、認知症高齢者に対する介護での関わり方や、リハビリテーションの方法論を考えていくことは必須であります。

dementia5.gif
(出典:厚生労働省)

認知症とは何か
まず認知症の定義を紹介します。
「認知症とは、成人に達した後に起きる持続的な知能の低下をいう。ただし、意識障害のために起こった認知障害は含めない。」というのが一般的な定義です。「成人に達した後に起きる」という部分ですが、認知症は高齢者だけに起こるという認識は多少誤っています。認知症の分類の中には、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症があり、アルツハイマー型認知症には若年性で発症するものがあるからです。
次に、「持続的な知能の低下」という部分ですが、我々人間は年をとるにつれて、物事を覚えることや、判断する能力が自然と衰えていくため、認知症という病気とただの老化との区別がわかりづらい場合があります。そこで、年をとれば自然と誰にでも起きる忘れ(良性健忘)と認知症の忘れ(悪性健忘)を紹介します。

良性健忘
・体験の一部を忘れる
・進行しない〜ゆるやか
・見当識障害はない
・自覚している
・日常生活に大きな支障なし
・幻覚妄想状態はない

悪性健忘
・体験したこと自体を忘れる
・進行が早い
・見当識障害がある
・自覚できない
・日常生活に支障あり
・幻覚妄想状態・作話・徘徊がある

認知症の原因
認知症は症状レベルの概念なので、その基礎にある原因疾患はあります。言われているのは、原因疾患は100近く存在します。その中でも、代表的なのがアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症です。アルツハイマー型認知症は次回紹介します。両者の違いは以下の図の通りです。
img6.gif
(画像引用:アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症
両者の大きな違いは、
アルツハイマー型認知症
人格変化→認知機能低下→意識障害
アルツハイマー型認知症は人格の変化によって起こることが多いです。

脳血管性認知症
人格変化←認知機能低下→意識障害
一方、脳血管性認知症は意識障害によって起こることが多いです。

認知症の症状
認知症の症状は多彩であるため、いくつかの症状の集まりであるという考えのもと、認知症は症候群であると理解する場合もあります。一般的には認知症は大きく中核症状と周辺症状に分けて考えます。

中核症状とは
知的機能低下に伴って生じる、記憶、思考、見当識、理解、計算、言語、判断の障害、情動の統制や社会的行動の障害、さらに人格変化などがあげられます。これらは認知症になると、誰でも現れます。ここで若干の説明を加えると見当識というのは、今はどのような季節か、今日の月日、今の時間、ここがどういう場所か、自分の目の前にいる人は誰か、自分は誰かということについての認知というほどの意味です。認知症では、時間→場所→人物という順序で見当識障害が進んでいくのは通例です。

周辺症状とは
周辺症状は特定の病態や状況によって生じる症状です。せん妄(意識障害に加えて幻覚や錯覚が見られる状態)や夕方症候群(夕方ごろそわそわと落ち着かなくなり、帰り支度をする状態)のような意識障害の一病態から、もの盗られ妄想や嫉妬妄想に代表される妄想や幻覚、あるいは、不安、焦燥、不眠、家族否認、失禁などなど出てくる症状は様々です。ここで大事なことは、ある人にはある出来事に対して妄想に辿り着くが、ある人には妄想に至らないというように、その人特有の事情が認知症に影響し、症状が出現するということです。

中核症状と周辺症状の成り立ち
下の図は中核症状と周辺症状の成り立ちを理解する上で参考になります。
中核症状は脳の細胞が障害され、機能の低下が見られるということです。これは様々な高次脳機能障害のリハビリテーションでも説明したように、ある脳の部分が障害されるとある機能の低下が見らるということです。側頭葉が障害されると記憶障害が、前頭葉が障害されると遂行機能障害が見られるということです。
一方、周辺症状の方は、中核症状を抱えて、生活を営んでいく中で心理的、身体的、状況的に困り果て、あたふたしているうちに辿り着く症状であり、こちらは医学的説明によるのではなく、理解すべき対象です。
中核症状は治療が難しいですが、周辺症状は、治療が可能であるため、リハビリテーションや認知症ケアでは、主に周辺症状に対してアプローチを行います。そのため、問題となる症状が中核症状なのか周辺症状なのかを判断し、リハビリテーションやケアを実施していくことで、認知症の進行を遅らせることができ、認知症を患ってもQOL(生活の質)の高い生活を営むことができるようになります。

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(出典:協同組合医療と福祉

認知症を生きる人に対するケアの方法論
認知症に対するリハビリテーションを紹介する前に、認知症に対するケアの方法論を紹介したいと思います。というのは、認知症に対するケアの方法論の中には、リハビリテーションでも役に立つようなヒントがあるからです。
認知症に対するケアの中で大事なことは、「認知症を生きる1人の人間として、彼らを尊重し、その人らしい生き方を、彼ら主体で支援していくことである」と私は思っています。
認知症は病気です。脳の病気であるため、生活を営む中で「できないこと」が生じてきます。しかし、この人は病気であるから、この人は1人では何もできないからという、理由だけでその人の生活全てを援助してしまっては、認知症の方々は生きる自信を無くしてしまいます。
小沢氏は認知症のケアを実践して行く中で「認知症高齢者からみた世界はどのようなものなのだろうか。彼らは何を見、何を思い、どう感じているのだろうか。そして、彼らはどのような不自由を生きているのだろうか」と疑問を投げかけ、相手を理解する姿勢が大事であると述べています。認知症を病む人の人生を少しでも知って、彼らの症状や行動を彼ららしい表現として理解する。そして、彼らが営む生活の中での不自由を知って、彼らに届けるべきケアに具体的なかたちを与えることが必要なのです。

認知症に対するリハビリテーション
認知症に対するリハビリテーションを紹介していきます。以下の3つに分類して説明していきます。
1. 中核症状に対するリハビリテーション
2. 周辺症状に対するリハビリテーション
3. 廃用症候群に対するリハビリテーション

1.中核症状に対するリハビリテーション
中核症状には脳の障害によって生じる脳実質性の症状だけではなく、廃用性症状が含まれています。廃用性の症状とは、ある機能を使わないことで、その機能が落ち込んでいる場合を言います。例えば、歩かなければ脚の筋力が衰えたり、座らなければお腹周辺の筋力が衰えたりすることです。
中核症状には廃用性によって、生じている部分がありますので、リハビリテーションでは機能の低下を防ぎ、維持・向上を目指します。
廃用性症状を予防する方法として運動をしたり、他者とのコミュニケーションを積極的に行ったりするといった、その人が現在持っている能力を最大限発揮していける機会を提供することです。またリハビリテーションでは、認知症の方々が「できること」と「できないこと」とを見極め、本人が「できること」を介護者が全て援助するのではなく、本人が自律して行っていくことが大事です。

2. 周辺症状に対するリハビリテーション
上記でも述べているように、リハビリテーションでは当事者が日常生活の中で「できること」と「できないこと」とを見極めることが重要となってきます。認知症高齢者は心理的な面、身体的な面、生活世界のどの面にもゆらぎをもたらす出来事が起きやすく、常に不安定な状態に置かれています。そのため、それぞれの面に生じた波紋が他の領域に容易に広がってしまうのです。介護者が当事者の「できないこと」を強要してやらせたり、当事者の失敗を叱ったりすることで、認知症高齢者は心理的な面に波紋を生じてしまい、それが身体的、生活世界にも影響を及ぼすのです。
「できないこと」を強要して認知症高齢者を混乱に陥れることを避け、「できること」を見いだし、維持していくことが認知症の進行を遅らせる努力を怠らないという態度が必要であります。
リハビリテーションでは、当事者が日常生活の「できる」部分を、出来るだけ自律して、その人らしく実施できるように支援していきます。中核症状に対して機能的アプローチ、環境調整、補助的手段の使用、など様々な方法を検討していきます。

「その人らしさ」を尊重した支援
リハビリテーションでは、認知症高齢者の「その人らしさ」を重視した支援を実施していきます。「その人らしさ」というと、あまりにも抽象的でわかりづらいと思いますが、人格や個性と言っても大きく違いはありません。我々1人1人の人格・個性を形成するものは、歩んできた人生の中にたくさん存在します。
リハビリテーションでは、当事者の歩んできた人生の歴史である「生活史」を当事者やその家族と共に振り返り、「その人らしさ」を形成してきた重要な要素を取り上げていきます。具体的には以下の4つが挙げられます。
・ 仕事
・ 趣味
・ 役割
・ 思想
上記の4つを踏まえながら、認知症高齢者の生活史を紡ぎだし、日々の生活の営みやリハビリテーションのなかで取り込んでいくことで、本人の意欲を引き出したり心理的・精神的な部分の向上を図ります。

認知刺激セラピー(CST)
認知刺激セラピー(以下CST)は認知症に対するリハビリテーションの方法論の1つであり、英国で開発されました。CSTは従来の認知症リハビリテーションの方法論であった現実見当識訓練や回想法などを包括的に取り入れています。

・現実見当識訓練とは何か?
現実見当識訓練とは、今日は何月何日なのかとか、季節はいつなのかといった時間や、今いる場所等が判らないなどの見当識障害(けんとうしきしょうがい)を解消するための訓練で、現実認識を深めることを目的とします。
・回想法とは何か?
回想法とは、人生の歴史や思い出を振り返り、自己の人生を再評価することで、自尊心を向上させる訓練です。

ある研究では、CSTによって認知機能面やQOL(生活の質)、日常生活の動作の面で向上が見られており、日本でもある介護施設で「いきいきリハビリ」として実施されています。CSTの内容は以下の通りで、10のセッションから構成されています。

① 季節の話題:季節の写真を見ながら、今の季節を確認する
② なつかしい話:なつかしい教科書やおもちゃなどに触れ、小さい頃の思い出を話す
③ 生活の知恵:なつかしい生活道具の写真を見て、使い方について話す
④ 仲間集め:名所(東、西)や季節(春夏秋冬)の写真を分け、旅行等の思い出を話す
⑤ 顔写真:有名人の写真を見て映画や歌の話をしながら、男女へ分ける
⑥ カード作成:なつかしい物のシールを無地のかるたに貼り、オリジナルカードを作る
⑦ カードゲーム:⑥で作ったカードを使って、簡単な記憶ゲームをする
⑧ なつかしパズル:オリジナルパズル(黒電話など、3〜6ピース)を完成させ、思い出を話す
⑨ 食べ物:旬の食べ物について話す、食べ物がいくら位か合計をそろばんで計算する
⑩ 歌:なつかしい歌謡曲を聴き、歌ったり、思い出を話す

3. 廃用症候群に対するリハビリテーション
上記でも述べたように、認知症の原因の1つとして廃用性によるものがあります。つまり、ベッド上での寝たきりや、家に閉じこもって他者とコミュニケーションをとっていないなどのように、運動や会話を行わないことで機能が低下してしまうというものです。
また、転倒することによって脚や腰を強く打ち、骨が折れて、手術や入院をするようになって、認知症を発症する方が多くいます。入院することで、環境が変わったり、運動量が減ったり、刺激が少なくなったりすることで身体的・心理的に不安定に容易になってしまうのです。
したがって廃用症候群を防ぐには、
・適切な量と質の運動を実施する(転倒を防ぐためにも)
・他者との関わりをなくさない
・日常生活の中で「できること」は、自立して行うようにする
・規則正しい生活をする
などが挙げられます。

最後に
近年の認知症高齢者の増加は、人間の寿命が伸び、高齢化が進んでいる社会が直面する出来事です。平均寿命は若かった頃には、認知症になる前に亡くなってしまっていたので、当時はあまり見られなかった病気であり、平均寿命が伸びた現代の社会では避けられるものではありません。
小澤氏は認知症の方々のことを「ぼけても心は生きている」と述べています。そして「ぼけても安心して暮らせる社会を」構築していくことが大事であると述べています。認知機能は落ちても、生活の中での不便さや、辛さ、孤独、自分が将来どこに向かっていくのかわからない不安など、認知症の方々は心で感じることはたくさんあります。我々は認知症の方々の辛い思いや訴えに対して耳を傾け、できるだけ「その人らしい」生活を営めるように支援していくことが重要だと思います。
そして、当事者や当事者の家族、医療従事者、地域住民など多くの人たちが集まって、認知症の方々が社会の片隅で過ごすような世の中ではなく、少しでも他者と関わり合い、「その人らしい」生活を送ることができる社会を構築していくことが、若い世代の使命であると考えています。

【記事執筆者:作業療法士 竹内健太】

参考・引用文献

1) 健康長寿ネット-リアリティ・オリエンテーション

2) リアリティ・オリエンテーション

3) 回想法-ウィキペディア-

4) 森 明子,小長谷陽子、他:認知症高齢者に対する個別リハビリテーションの効果-「いきいきリハビリ」の開発に向けた予備研究-,愛知作業療法, 18 : 49-56, 2010.

5) 長谷川由美子,山田 孝:人間作業モデルスクリーニングツール(MOHOST)の活用により認知症の行動障害の軽減に至った事例,作業行動研究,14:274-283,2011.

6) 痴呆老人からみた世界―老年期痴呆の精神病理


7) 痴呆性高齢者ケア―グループホームで立ち直る人々 (中公新書)


8) 痴呆を生きるということ (岩波新書)


9) 物語としての痴呆ケア

高次脳機能障害9〜意欲・発動性障害のお話し〜

イントロダクション
脳損傷の患者さんの中には、訓練室でのリハビリテーションや日常上での生活の中で、やる気が出ない、エネルギーがわかない、物事を始められないといった状態を呈した人がいます。
一見すると、脳に大きな損傷が起きたその後遺症で、病前にできていた動作ができなくなり、それによって元気がなくなり、気分が落ち込んでいるのではないかと思ってしまいます。確かに、そのような「うつ状態」も脳損傷の患者さんには頻繁に見られます。しかし、「うつ状態」と違って、意欲・発動性が低下した人は、気分の落ち込みは目立たないのに、行動だけが減ってしまうのです。意欲・発動性が低下した人と、うつとは別の症状なのです。その違いがわかりづらく、うつになったのではないかと心配して、支援者が当事者を精神科に受診しに行かせることが往々にしてあります。しかし、実際は脳の損傷によって引き起こされたものであり、うつ病のような精神病ではないのです。この辺りの違いを理解し、当事者への関わり方が大切になってきます。

意欲・発動性障害(の低下)の定義
厳密に言うと、「発動性の障害」と「「意欲の障害」とは必ずしも同義ではありません。他の表現としても「自発性の障害」というものがありますが、ここでそれらの違いを説明すると混乱してしまいますので、ここでは全てをひっくるめて「意欲・発動性の低下」として話を進めます。

「意欲・発動性の低下」を定義する上で、どのような臨床像なのか以下に挙げてみましょう。

1.放置すると自ら何かをするという傾向がほとんど認められない。

2.言語表現のみならず表情、仕草などの非言語的表現にも乏しい。

3.しかし、外からの働きかけがあると、それには最小限の反応を示すことがまれではない。

4.意欲・発動性の低下はすべての活動に及ぶこともあれば、たとえば言語のみ、思考のみ、に限定している場合もある。

5.内的体験としては、多くは、外界で生じている出来事に対して「無関心」であるのが一般的であり、「抑うつ感」や「悲哀感」が訴えられることは、原則として、ない。

6.意識障害、認知障害、情動障害が原因として起こるような状態ではない。

7.他の認知障害は、原則としてみられないか、あったとしても軽度である。

統合すると、周囲からの声かけや促しなどの刺激には最小限応じるが、意識・情動(感情)・認知に大きな障害がないにもかかわらず、自分自身の内側から「〜をしよう!」といったような自発的な部分が見られず、かつ外界で生じていることに対して根本的に無関心である状態です。無関心が重要なポイントです。家族や周囲の人たちが心配するのをよそに、自分の現在の状態や将来について無関心な傾向を示すのです、

一方、うつ症状は、自分の現在の状態や将来について悲観的に捉える傾向があります。ここが両者の違いです。

脳のどこが障害されると、意欲・発動性の低下が起きるのか。
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意欲・発動性の低下は頭の前方にある前頭葉という部分が障害されると起きます。そのため、交通事故で前頭葉を強く強打したり、くも膜下出血によって脳全般が障害された場合によく発生します。

リハビリテーション
意欲・発動性の低下に対しての、リハビリテーションでの訓練、取り組み方を紹介します。日常生活でのリハビリテーションでも応用できる部分があります。

・ 自分から始められるように、行うべき行動のチェックリストを作成する
事前にスケジュールをたて、チェックリストにしておくことで、行動が容易に始められます。スケジュールを見て、「次はこれをして、その次はこれだな」というように、それに沿って行動すれば良いので、行動を開始するまでのエネルギーを使わなくて済みます。

・ タイマーやアラームを使って、行動を起こすきっかけをつくったり、行動にめりはりをつけたりする。
タイマーを使い「あと1分後に始める」といったように、時間を設定することで行動を起こすきっかけをつくります。また「20分でこれを仕上げる」といったように、行動の終了時間を設定することで、自分にプレッシャーをかけ、課題に対して意欲を高めます。

・ きっかけや流れをつかみ、とりあえずやらせてみる。
とりあえずやってみる、というのは意欲・発動性が低下している人にとっては大事です。我々も、やる気がなかった事に対して、周囲に促されて実際にやってみたら、楽しくなって意欲的に取り組めた、ということが往々にしてあると思います。リハビリテーションでも、本人が好きな課題や趣味などを取り入れて、まずやらせてみて、そこから意欲的に取り組めるような良い方向へ誘導することで課題を遂行することができます。

・ 趣味や好きな課題を用いる
人は嫌いな事に関しては、進んでやろうとは思いません。意欲・発動性が低下した当事者も、同様です。したがって、聴取によって本人から趣味や好きな課題を引き出し、それを訓練で用いることで課題に対して意欲を高めること実施します。

・ 運動を取り入れる
思考力を必要とする課題を実施する前に、運動をして身体を動かすことで、課題に対して意欲が上がることがあります。運動によって、血流が良くなり、脳の活動が上がるため、課題に対する導入が容易となります。

・課題が達成したら、褒める
課題を達成した後に褒めることで、達成感が大きく感じられます。それによって、脳の報酬系回路が活性化され、ドーパミンという脳内物質が多く分泌されます。ドーパピンという物質は前頭葉に多く放出されており、快感を高め、達成された課題に対して意欲が強くなります。そうすると、再び同じ行動をとりたくなり、課題に対して意欲が向上するといったように、良い影響を及ぼします。

退院後の日常生活でのリハビリテーション

・ 支援者は、当事者に対して「なまけている」とは言わない。
当事者周囲の人々はまず始めに、当事者の障害を理解することが大切です。意欲・発動性の低下は、どこまでが正常で、どこからが異常なのかはっきりと目に見えてわかるわけではありません。そのため、周囲の人々は、本人がただただなまけているだけだと思ってしまいます。その誤解を説いて、当事者は「なまけている」のではなく、「わかってはいるけども、できない」ということを理解して、周囲の支援者は振る舞わなければならないのです。

・ 支援者は喜怒哀楽をはっきりさせて話す
外からの刺激に対する反応性そのものが低下していることもあり、支援者は普段よりも多少オーバーな動作で対応することが大切です。大きな動作や喜怒哀楽をはっきりさせて話をしたりすることによって、容易に自分から感情を表現したり、物事を開始したりすることができるのです。

以上のように、意欲・発動性の低下に対して説明してきました。大事なことは、障害を理解し、相手の意欲を高めるように適切に振る舞うことです。やる気がない、意欲がわかないといったことは、我々が普段の日常生活でも感じることであります。それに対しての対応の方法は脳損傷により意欲・発動性が低下した人にも応用できるものが多くあります。したがって、周囲の人々が当事者と一緒になって、どうすればうまくいくのか、考えていくことで、障害を乗り越えていくことが大切であると思います。

【記事執筆者:作業療法士 竹内健太】

参考・引用文献
今回は多少、引用部分が多くなりました。詳しく知りたい方は以下の文献を参考にして下さい。

1) 高次脳機能障害 どのように対応するか (PHP新書)


2) 精神の脳科学 (シリーズ脳科学 6)


3) 脳を活かす勉強法 (PHP文庫)


4) 生活を支える高次脳機能リハビリテーション


5) 大東祥孝:発動性障害の病理を探る,高次脳研究,24,2004.80-85

高次脳機能障害8〜遂行機能障害のお話し〜

イントロダクション
我々が家事や仕事、学校での教育などを円滑に営む上で、物事を計画し、それを実行し、修正していく、そしてそれを踏まえて再度計画していくといった能力が必要となっていきます。
「主婦が料理の支度をする」といった活動を例にとれば、料理をしようと思い立つ、献立を考える、冷蔵庫を見て足りない材料を考える、必要な材料を買いにいく、レシピ通りに料理をつくる、実際に食べてみて塩辛ければ次回は少し塩を少なくするように修正していく、といったように多くの工程で成り立っています。
このような能力は我々ヒトをヒトたらしめているものであり、この能力を失うと日常生活が空疎なものとなってしまいます。このような人間が得意とする複雑な脳の機能を「遂行機能」といいます。

遂行機能障害とは
橋本氏は遂行機能障害を一般の人々にも理解できるような言葉で述べています。
「遂行機能障害とは、物事を論理的に考えられない、計画できない、問題を解決できない、推察できない、実行できない。さらには、それを評価、分析できない、ことになるのです。もっといえば、要点を絞り込めない、よりよい解決策を見つけられない、ゴールの設定が困難、物事の優先順位がつけられない、必要に応じて間違いを修正し計画を変更できない、などの症状もあります。」
上記の説明を読んで、遂行機能障害とは複雑な障害であると同時に、障害が起きれば我々の普段の日常生活を営むことが難しくなるのが想像できます。遂行機能は日常生活とかけ離れた特殊な機能であると思われがちですが、通常の社会生活に必須の機能であるといえます。
遂行機能障害を持った患者さんは、病院での入院生活では特に大きな影響が出ずに障害がわからない場合があります。それは、病院の入院生活では看護師さんや、介護士さんが患者さんのほとんどの生活の世話を担当しますし、病院の中では複雑な思考を要するような出来事がありませんので、障害が顕在化しにくいのです。退院して普段の生活に戻り仕事や家事をして行く中で、物事に集中できない、物事をうまく考えることができない、物事をうまく実行できないといったような障害を感じるようになるのです。

遂行機能障害を簡潔に説明すると以下の4つに分けることができます。
1. 目標の設定
2. 計画の立案
3. 目標に向かって計画を実際に行うこと
4. 行動を効果的に行うこと
これらの4つの要素が円滑に働くためには、これまでの記事で紹介してきた、言語や記憶、注意などの機能、また意欲、情緒・感情など多くの要素が関連してきます。旅行プランを立てる、夕食の献立と調理の段取りを立てる、などの日常生活の行動を考えると、上記の4つの要素とそれらを支える、各機能の必要性が想像できると思います。

遂行機能は脳のどこが担っているのか
遂行機能は脳の前方の部分である”前頭葉”という場所が司っています。前頭葉は側頭葉や頭頂葉などと神経繊維で連絡をとっているため、前頭葉以外の部分が障害されても、遂行機能障害が見られる場合があります。
そのため、前頭葉は様々な脳の場所から様々な情報が集まります。そして集まった情報が統合され、我々は思考したり行動したりすることができるのです。そのため、前頭葉は”脳の司令塔”と呼ばれています。

前頭葉


遂行機能障害はどのように検査するのか
遂行機能障害の検査には様々なものがありますが、この記事では遂行機能障害の質問表を紹介します。遂行機能障害を検査する方法にBADS(Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome:遂行機能症候群の行動評価)というものがあり、その中にDEX(The Dysexecutive Questionnaire:遂行機能障害質問表)というものがあります。当事者用と家族・介護者用が存在し、20項目の質問に5段階(0点〜4点)で答えるという検査です。
以下に項目を挙げてみます。(質問No.10は文献に載っていませんでした。わかり次第掲載します。)

1. 単純にはっきり言われないと、他人の言いたいことの意味が理解できない。
2. 考えずに行動し,頭に浮かんだ最初のことをする。
3. 実際には起こっていないできごとやその内容を、本当にあったかのように信じ、話をする。
4. 先のことを考えたり、将来の計画を立てたりすることができない。
5. ものごとに夢中になりすぎて、度を越してしまう。
6. 過去のできごとがこちゃまぜになり、実際にはどういう順番でおきたかわからなくなる。
7. 自分の問題点がどの程度なのかよくわからず,将来についても現実的でない。
8. ものごとに対して無気力だったり、熱意がなかったりする。
9. 人前で他人が困ることを言ったり行ったりする。
11. 感情をうまくあらわすことができない。
12. ごくささいなことに腹をたてる。
13. 状況に応じてどう振る舞うべきか気にかけない。
14. 何かをやり始めたり、話し始めると、何度も繰り返して止められない。
15. 落ち着きがなく,少しの間でもじっとしていられない。
16. たとえすべきでないとわかっていることでも、ついやってしまう。
17. 言うこととやることが違っている。
18. 何かに集中することができず、すぐに気が散ってしまう。
19. ものごとを決断できなかったり、何をしたいのか決められなかったりする。
20. 自分の行動を他人がどう思っているのか気づかなかったり、関心がなかったりする。

上記の質問項目は
・気分の変化、人格の変化
・動機付けの変化
・行動の変化
・認知の変化
の4つの領域が考慮されています。上記の4つの領域は前頭葉が大きく関連しています。これらの領域がどれか1つでも欠けてしまうと、前頭葉が司っている遂行機能に障害が見られます。それらを遂行機能障害質問表(DEX)を使用して当事者と家族・介護者による質問を通して、遂行機能障害の有無を判断します。

遂行機能障害に対するリハビリテーション
1. 環境調整による訓練法
当事者周囲の環境を整えたり、活動中に混乱してしまう要素を出来るだけ減らすことで、行動しやすいようにすることです。一部を紹介します。
・タンス、キャビネットにラベルを貼る
・食器棚や冷蔵庫の棚に物を入れる際に、種類に分ける。
・机の引き出し、戸棚、収納物、箱などには記しをつけたり、用途によって色を分ける。

・注意が散漫にならないようにドアや窓を閉める。
・ラジオやテレビの音を消す。
・光の量を調整する。

・同時に複数の課題を行わないで済むようにする。
・日課を決め、規則正しい生活をする。
・多くの人が同時に話す状況を避ける。

2. 代償手段
チェックリスト、システム手帳、カレンダー、予定帳、などを用いることで記憶したり考えたりする労力を出来るだけ減らします。IT機器が発展してきた世の中、iPhoneやiPadなどを積極的に用いることも良いかもしれません。

3. 課題特異的訓練
日常生活、社会生活上問題となる特定の技能および日課の訓練を行うことです。当事者またはその家族とセラピストが話し合って、最も優先度の高い活動を選択し、それに焦点を置いて訓練をすることです。実際の訓練場面場面をビデオに撮って当事者自身が見て、どこが苦手なのか気づくことで自己認識が高まったり、そこから課題がうまくいくように試行錯誤することで行動のコントロール能力が高まります。また反復訓練して、身体で覚えることができるといった利点もあります。

日常生活でできる遂行機能障害に対するリハビリテーション
我々が日常生活を営んでいく中で、見落としや多くの失敗を経験します。我々はそれらを防ぐために、メモをとったり、パソコンでスケジュールを管理したり、ノートで思考を整理します。
遂行機能障害を持った方々も同様です。
・具体的な計画を何でもリストとして書き出す習慣をつける。
・支援者は、いつ、どこで、誰が、何を、いつまでに、どのように行なうか、そしてその結果どうなるのかを伝える。
・行動は事前に簡単なレベルに分断化し、行動するときは頻繁に立ち止まり、そのつど確認するクセをつける。

1. 料理をしたことがない人が、初めて料理をするときのことを想像してみて下さい。献立が決まると、具体的な計画が載っているレシピを見ながら作る人が、初心者には多いと思います。材料は何が必要なのか、どんな道具が必要なのか、完成までにどのような工程をふんでいくのか、料理のレシピに不足な情報があれば、さらに細かな計画を書き出して行く必要があります。

2. 初心者が料理をする際には、一緒に手伝ってもらえる人が必要かもしれません。援助者は、初心者に対して、いつ、どこで、何を、どのようなするのか、といったことを伝えると、初心者は余裕をもって考えることができます。

3.事前に計画を立てることで時間に余裕が生まれます。工程を分けることで、各工程が終わるたびに振り返りを行い、間違いがなかったかどうか確認でき、また修正を加えることもできます。

つまり、初心者を遂行機能障害を持った方に変え、料理だけではなく他の活動に置き換えることで、日常生活における当事者に対する支援の方法が具体的にわかったと思います。

【記事執筆者:作業療法士 竹内健太】

参考文献・引用文献

1) 種村 純:遂行機能障害のリハビリテーション. BRAIN MEDICAL Vol20 No4. 2008. 13-18

2) 豊倉 穣:遂行機能障害. JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION Vol18 No9. 2009. 790-798

3) 高次脳機能障害 どのように対応するか (PHP新書)


4) 生活を支える高次脳機能リハビリテーション


5) 高次脳機能障害マエストロシリーズ(3)リハビリテーション評価

高次脳機能障害7〜失語症のお話し〜

イントロダクション
人間は言葉を用いて相手とコミュニケーションをする唯一の動物であります(今のところ)。そのコミュニケーションの1つの手段である言葉を失ったとき、人は大きく絶望を感じます。私は今までに様々な高次脳機能障害を持った患者さんに会い、人それぞれ辛い思いを持っていることを感じてきました。その中でも、失語と嚥下障害を患った患者さんは特に、大きな辛さを持っていました。失語は相手が伝えていることを理解できなかったり、自分の伝えたいことを言葉にして伝えられない障害であり、それによって相手とのコミュニケーションが円滑にできず、ストレスを感じます。

失語症の定義
簡単に定義すると、脳の損傷が原因で、他人の考えを理解したり、自分の考えを表現したりすることが困難な状態を、「失語症」といいます。

失語症の分類
まず失語症でみられる言語症状を大きく分けると、
聴く障害
話す障害
読む障害
書く障害
が挙げられます。他にも計算ができないなどの関連した症状がありますが、大きく分けて上記の4つです。
ここではさらに大きく分けて2つ紹介します。それは、ブローカ失語とウェルニッケ失語です。
・ブローカ失語
言葉を発したり、文字を書いたりするなど、言語を外向きに表現する脳の場所をブローカ野といいます。そこが障害されると、それらの機能を失います。ブローカ野は、前頭葉の後ろ側にあります。
・ウェルニッケ失語
人の話を理解するという機能を担っているのがウェルニッケ野です。そこが障害されると、相手の話していることが理解できなくなります。ウェルニッケ野は、側頭葉の後ろ側にあります。

言語

画像の引用箇所:http://www.phoenix-c.or.jp/~hideo/reha/kouen/003/003_02.html

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失語症の検査
まず、失語の検査をする前に、意識障害や知的機能、注意機能や記憶機能などの高次脳機能の有無について調べておきます。言葉を聴く、話す、読む、書くといった能力は、しっかりと意識が保たれており、知的障害がなく、注意が散漫ではないなどの多くの機能が働いて活動できるからです。
広く使用されている失語の検査方法としてSLTAという標準失語症検査があります。聴く、読む、話す、書くといった言語の使用を幅広く診ることができる検査です。

失語症リハビリテーション
失語症に対するリハビリテーションのアプローチは多岐にわたります。
1.言語機能そのものに対するアプローチ
言葉を聞いて理解する、文字を読んで理解する、言葉を発する、文字を書くなどの課題を作成し、実施するものです。これらの機能的なアプローチを実施する上でいくつかの原則があります。
・身近な言語刺激を与える
 日常生活でよくふれる言葉を訓練で使用することで、課題の難易度を調節していきます。訓練初期に難易度の高い、普段目に触れることのない言葉を用いても、訓練の効果はありません。

・複数の入力回路の使用など強力な言語刺激を与える
 複数の入力回路を使用するというのはつまり、様々な課題を実施したり、五感を使うことで訓練効果を高めようとすることです。記憶機能のリハビリテーションでも述べたように、覚えたい事柄を読んだり、聞いたり、言葉に発したりすることで覚えることが容易になるということと同じように、失語症の訓練でも様々な感覚を使用します。

・刺激を反復して与える
 脳の研究によって、脳を刺激すれば刺激するほど機能が向上することがわかっています。同じ刺激を何度も与えることで言語機能を向上させようというねらいがあります。

・刺激に対する何らかの反応を患者から引き出す
 失語症の患者さんに、課題を提示したり、質問を投げかけることで、何も反応しないときと、悪い反応が返ってくるときと、良い反応が返ってくることがあります。患者さんによって、言語の障害が違ってきますので、同じ刺激を与えても返ってくる反応が違ってきます。できるだけ、良い反応をみつけ、それを使用して機能を向上させていくことが大事です。

・正反応をほめるなど得られた反応を選択的に強化する
 人は褒められたり、達成感を得られると、脳の中でドーパミンという物質が放出され、報酬系の回路が活性化します。それによって、そのときに実施していた課題の動作や能力が向上するという考えです。良い反応が見られたら、褒めるといったように訓練を進めていくことが重要です。

・誤反応に対しては矯正するよりも刺激の適切さを再考する
 患者さんが間違った反応をした場合に、それを改めるように患者さんに促すのではなく、セラピストの課題の与え方や言葉のかけ方などを改めることが重要であるということです。患者さんに誤りを起こさせるのは、できるだけ防がなければなりません。

2.言語機能の代替手段を含むコミュニケーション能力に対するアプローチ
 コミュニケーションは口から発せられた言葉だけで成り立つものではありません。コミュニケーションボードを使用したり、紙に書いたり、ジェスチャーを使用したりするといった他の手段でもコミュニケーションが成立します。そういった代わりの手段を訓練することで、コミュニケーションが円滑に遂行できるようします。

3.患者の心理面に対するアプローチ
 失語症の患者さんは、思うように言葉を理解できなくなったり、伝えられなかったりすることで、喪失感や挫折感を経験します。それらを軽減し、障害を理解するように促します。当事者、患者家族に対するカウンセリングや、失語症の患者さんが集うようなコミュニティに参加したりすることで、障害を受容できるように援助を行います。

失語症に対する関わり方
失語症の患者さんにとっては、言葉を理解する、話す能力が低下しているため、周囲で話されていることが理解できず、また自分の伝えたことを思うように伝えられません。そのため、多くの患者さんが混乱したり、焦燥感を覚え、気分が沈んでしまいます。したがって、失語症の患者さんに対する周囲の人々の話方、声のかけ方が重要になってきます。

1. 短い言葉や文章など用いて、簡潔な言い回しを心がける。
専門用語や難解な言葉を用いたり、まどろっこしい言い回しを用いると当事者は混乱してしまいます。短く文章を区切り、簡潔性を求めましょう。

2. 親しみがあり、わかりやすい言葉で、ゆっくり、自然な口調で語りかける。
地方の方言、早口、息継ぎのない会話、脈絡のない会話などは避けて、ゆっくり、優しい口調を心がける。

3. 当事者が言葉を発しそうになったら、最初の文字を言うなど援助する。
話の流れから、当事者が何を言おうとしてる推測し、会話の手助けを行う。

4. 当事者が質問に答える際には、十分に時間を与える。
焦らず、考える時間、言葉を発する時間を与えることが大事です。決して相手を混乱させてはいけません。

5. はい、いいえで答えられる質問をする。
質問の仕方には2種類あります。開かれた質問と閉ざされた質問があります。これはカウンセリングの場面における質問技法の1つであります。
開かれた質問とは、応答内容を相手に委ねる質問形式のことです。例えば、相手がりんごが好きだとしましょう。その相手に「なぜ、りんごが好きですか。」と質問することです。相手はその質問に対して、「子供のとき、おじいちゃんがよく買ってきてくれたから。」とか「健康にいいから。」など様々な答えが返ってきます。このように考える時間を必要とし、様々な情報を含ませるため、それだけ言葉を選んでいくことが必要となり頭を使っていきます。
一方、閉ざされた質問は、相手が「はい」「いいえ」あるいは一言で答えられるような質問形式のことです。先ほどの例でいくと、「りんごは好きですか。」と質問すると、相手は「はい」か「いいえ」のどちらかしか答えがありません。そして「りんごはおいしいから好きですか。」「子供の時から良く食べたんですか。」という質問も同様に、「はい」「いいえ」の二者択一で答えられるような単純な質問形式です。このような閉ざされた質問は、答えるために考えこむ必要がほとんどありませんので、答えるのに苦労しなくてすみます。
失語の患者さんは、開かれた質問形式よりも、閉ざされた質問形式の方が楽であるため、会話にストレスがかかりません。そのため、会話の中では、「はい」「いいえ」で答えれる質問形式が良いのです。

6. なるべく一対一で会話する。
大人数で会話をすると、どこに集中していいかわからなくなり、混乱してしまいます。集中できるように、一対一で会話を行うほうが良いです。

7. 話す、紙に書く、ジェスチャー、指差しなど、様々な手段でコミュニケーションを促す。
コミュニケーションは「話す」だけではありません。紙に書いて文字にする。絵を描く。ジェスチャーする。体で表す。指差し。など、方法はたくさんあります。様々な手段を試してみることが大切です。

8. 当事者に指示を出す時は、単純に、手順の説明を区切って説明する。
「これこれをして、なになにをして、そしてこうして、あーして下さい。」と説明すると、混乱してしまいます。動作の手順を説明する際には「これこれをして下さい。」と指示を出し、その動作が終えてから「次になになにをして下さい。」と指示を加えます。1つの指示、1つの動作を終えてから、次の手順に進みます。

9. 当事者に見合った、コミュニケーションの方法を模索していく。
同じ脳の形を持った人はいません。人それぞれ、脳の形が違いますし、病巣も違い、出現する障害も違ってきます。失語症もしかりであり、同じ障害名で説明できても、当事者によって何ができて、何ができないかは異なってきます。したがって、当事者に見合った、当事者が満足するようなコミュニケーションを周囲の人々と模索していくことが重要です。ある人は紙に書いたほうがいい。またある人は、ジェスチャーのほうがいい、といったように適した方法がありますので、時間をかけて探して行くことが大切です。

【記事執筆者:作業療法士 竹内健太】

参考文献、引用文献

1) 心理学用語「開かれた質問/閉ざされた質問」

2) 高次脳機能障害 どのように対応するか (PHP新書)


3) 高次脳機能障害マエストロシリーズ(3)リハビリテーション評価


4) 立石雅子:失語のリハビリテーション. BRAIN MEDICAL Vol20 No4, 47-52,2008.

5) 佐々木信幸,安保雅博:失語症. Journal Of Clinical Rehabilitation, 776-781,2009.

失語症を詳細に知りたい方は以下のサイトを参照して下さい。
ウィキペディア:失語症
言葉の障害〜失語症とは〜
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http://www.ikoma-hp.com/
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